「
作文という技術の指導原理は、人間が一度に思考一つだけを明瞭に考えることができるので、
二つ、ましてそれ以上の思考を同時に考えさせられてはならないことである。
」
-- アルトゥル・ショーペンハウアー、「余録と補遺」(1851)より
独立した「ブティック」翻訳者:
ブティック翻訳者は、一流企業社内で、特定の分野の専門家の下で永年の翻訳経験を身につけてから独立し、翻訳関係の個人事業者としても特定の専門分野で相当経験を蓄えているネイティブ翻訳者です。 お客様に取り、ブティック翻訳者を見つけることがやや難しことがあります。一つには、総合翻訳会社のように多くの顧客から受注できませんから、元雇用者等、少数のお客様にしか翻訳サービスを提供できません。お客様を増やすときでも、普段、集客活動によらない口伝えや、既存のお客様を通じた直接の紹介で行うことが多いです。自分のHPをネットに載せるブティック翻訳者は極一部です。それでも、お客様から見れば、優秀なブティック翻訳者と長期的なビジネス関係を結ぶ値があると思います。
高品質と信用性: 企業の社員は、職場や上司の権威などで、規律を強制されます。しかし、独立した個人翻訳者は、大小を問わず全ての翻訳サービス提供者とともに、市場の競争という厳格な規律に晒されます。高技能と信用性を欠ける翻訳者は、やがて市場から淘汰されます。
低リスク: 独立した翻訳者の技能と信用性を評価するのは、新入社員の候補者を評価することより難しい筈はありませんし、リスクは少ないでしょう。新入社員は、度々研修等が必要し、必ずしも優秀な人材となりません。それに対し、一度、独立した翻訳者に翻訳案件を委託してみた結果、品質劣れていると分かれば、直ちに解約できます。それが全事業者が従わなければならない、市場の厳しい規律です。
便利性、簡単な協議: 言う迄もなく、翻訳はサービスです。サービス業では賢明なお客様は、必要なときにサービス提供者と少しでも協力すれば、もっと適した、高品質なサービスを貰うことが出来るとが分かるでしょう。既に
翻訳工程
ページで述べました通り、翻訳作業チームのメンバーによる相互協議が重要です。こういった協議は、実際に翻訳作業を当たる翻訳者とお客様が直接連絡できないと不可能に近いです。しかし、ブティック翻訳者であれば簡単で便利です。
お客様の特有なニーズに適した翻訳サービス: ブティック翻訳者と長期的なビジネス関係を築く場合、翻訳者はお客様の特有なニーズを把握し、長期的にそのニーズにぴったり合わせた翻訳サービスを一貫して提供できます。特に、お客様の業界や取引分野における専門用語や表現を覚え、お客様の好むスタイルや訳語も覚えられます。
高経済性:
翻訳サービス提供者
のページで述べました通り、翻訳市場は、2層に分かれています。第1層は個人翻訳者、第2層は大手翻訳会社に構成されています。第1層の個人翻訳者は直接にお客様に仕えるので、中間業者はありません。従って、お客様と翻訳者は直接に連絡できますし、翻訳料も比較的に安いです。安価な料金は、業者により低品質を意味する場合がありますが、永年に渡り熟練したブティック翻訳者とビジネス関係を築くことで、お客様は第2層の品質を第1層料率で享受できます。独立した個人ブティック翻訳者は、いかにして比較的に低い翻訳料率で高品質の翻訳を提供できるかについては、
翻訳料金
ページもご参照下さい。
社内スタッフの技能拡大
: 翻訳会社の「登録翻訳者」とは違い、ブティック翻訳者は、お客様の社内スタッフと直接に連絡し、直接に協議をしています。また、お客様およびお客様の社内スタッフとの関係が比較的に密接です。従って、社内スタッフは、自由に社外翻訳者に助言を求めたり、相談したりできます。翻訳と英語に関する技能を増やそうと思う社内スタッフには、熟練したネイティブのブティック翻訳者と同じチームで仕事をするのも価値のある経験となります。
ブティック翻訳者を効率的に利用する:
社外個人翻訳者をどのように賢く利用するかについては、以下の心得をご参考下さい。
連絡係と翻訳者と添削者との協議:
「翻訳チーム」
のページで詳しく申しましたように、一部のお客様に取り、社外の外国人ブティック翻訳者を含む自社の翻訳チームを経済的に組織することが決して難しくありません。しかしその際、連絡係と社外翻訳者と訂正者の関係が重要です。社外翻訳者は、委託された翻訳案件の内容に関する不明な点があった場合、完成した翻訳原稿を納品する前に連絡係または訂正者に必ず確認・協議し、或は少なくとも関係文章などを色づけでハイライトし、社内スタッフの注意を喚起することを、厳格に遵守する慣習にしなければなりません。一方、訂正者等社内スタッフは、翻訳原稿に専門用語や文章の構造等、重要な変更を行った場合にも、「改悪」を防ぐためメールや電話で社外翻訳者と「逆行協議」を行い、または訂正した原稿を社外翻訳者に再送信し、確認して貰うことが重要な場合もあります。また、添削者がネイティブまたは相当の英語力のある日本人スタッフでなければ、意味の変更を伴う訂正を、翻訳者に一度、確認して貰う必要があるでしょう。要するに、訂正者、翻訳者、及び添削者は、お互いに協議することにより訳文の変更が全て「改善」で、「改悪」とはならないよう、常に注意しなければなりません。
翻訳用原稿の作成: 翻訳用原稿を作成する執筆者は、論理的で明瞭な文章を作成すれば、翻訳に関する協議の必要が少なくなり、また案件の完成までの所要時間が短くなります。文体が悪文、または不明な点が多いほど、翻訳チーム各員による協議が必要となり、完成までの所要時間も長く、ミスの危険性も伴います。因に、次のような作文心得をお勧め致します:(1)多くの修飾句を重ねた余計に長い文章を避けること、(2)受動態を避け主語を明瞭にすること、(3)「など」を使うより具体的に書くこと、(4)文章の途中で括弧を使わずに、当該内容を文章本文に織り込むこと、(5)必要な句読点を巧みに使うことで修飾関係と文章の意味を明瞭にすること、(6)片仮名外来語を余計に使わず、なるべく日本語を使うこと、(7)文章の思考が前方に流れるように書くこと。翻訳者を困らせるのが原稿の専門性だと思う人が多くいるらしいですが、どちらかと言えば、自分の得意分野に専門知識のある翻訳者は、その知識を当てに文章を理解するのです。翻訳作業を難しくするのは、原稿の専門性ではなく悪文です。名文の特徴は、文体がロジカルと具体的で、主語、そして修飾と被修飾の関係が明瞭、文章の長さが適度、それから思考の流れが前方に進むことです。明瞭で読みやすい文章が「名文」の定義であるという価値観があり、また、明瞭な文章が執筆者の能力として評価されます。その点、下記の書物が役立つと思われますので、是非、ご参照下さい。
保田正、「誰でも論理的に書けるロジカル・ライティング」(日本実務出版社、2008年).
三森ゆりか、「外国語を身につけるための日本語レッスン」(白水社、2003年).
本田勝一、「日本語の作文技術」(朝日新聞社、1982年その他).
岩淵悦太郎,「悪文」(日本評論社、1979年).
林大・碧海純一編、「法と日本語」(有斐閣、1981年).
U.S. Securities and Exchange Commission,
A Plain English Handbook
(1998).
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